現場目線で企業リスクを可視化する調査・リスクマネジメント

不正送金が疑われたら|建設会社の社長が取るべき初動と対応手順

不正送金が疑われたら|建設会社の社長が取るべき初動と対応手順

「会社の口座から、覚えのない送金が行われているかもしれない」

そんな連絡を経理担当者から受けたら、社長は何から対応すればよいのでしょうか。

建設会社では、協力会社への工事代金、資材代金、外注費など、日常的に多くの支払いが発生します。

そのため、振込先の変更や請求書の差し替えが行われた際、誤った口座へ送金してしまうリスクがあります。

また、インターネットバンキングの認証情報が不正利用され、会社が承認していない送金が行われる可能性もあります。

ただし、見覚えのない取引が、必ず犯罪による不正送金とは限りません。社内の別担当者による正当な支払いや、記帳上の確認不足である場合も考えられます。

重要なのは、事実を確認しながら、被害拡大を防ぐために必要な連絡を遅らせないことです。

最初に確認したい重要事項

不正送金が疑われる場合は、取引の詳細を確認しつつ、送金元の金融機関へ速やかに連絡してください。送金の停止や組戻し、口座の保護など、可能な対応は取引状況や金融機関によって異なります。

取引先への確認や社内調査を終えるまで、銀行への連絡を後回しにしないことが重要です。

目次|クリックで開閉できます
  1. 不正送金が疑われる場面とは
  2. 社長が最初に確認する取引情報
  3. 金融機関への連絡を優先する理由
  4. 送金前・送金後で異なる対応
  5. 組戻しと資金回収の注意点
  6. 取引先への事実確認の進め方
  7. 経理担当者と社内で共有する内容
  8. メール乗っ取りが疑われる場合
  9. 証拠と取引記録を保全する手順
  10. 警察・専門事業者への相談
  11. 建設会社の支払業務を守る再発防止策
  12. 社長向け初動チェック表
  13. 今日の一歩とまとめ

1.不正送金が疑われる場面とは

不正送金が疑われる状況には、いくつかの種類があります。

例えば、会社の口座から身に覚えのない振込が行われていた場合です。

また、協力会社を装ったメールに従い、実際の取引先とは異なる口座へ工事代金を振り込んでしまった場合も考えられます。

さらに、インターネットバンキングのアカウントが第三者に不正利用され、会社の承認を受けていない送金が行われる可能性もあります。

疑われる状況 考えられる原因 最初に確認すること
覚えのない振込がある 不正利用、社内の別担当者による支払いなど 取引明細、承認記録、金融機関への連絡
変更された口座へ送金した 正当な変更、なりすましによる口座誘導など 取引先への独立した確認、金融機関への連絡
不審なログイン通知がある 認証情報の不正利用など 銀行への連絡、ログイン履歴、利用制限の確認
請求書の口座情報が違う 正当な変更、誤記、請求書改ざんなど 送金状況、過去の登録口座、取引先への確認

疑いがある段階では、犯罪が確定したと決めつけず、確認できた事実と未確認事項を分けて記録することが重要です。

2.社長が最初に確認する取引情報

不審な送金が見つかった場合、まず取引の基本情報を確認します。

  • 送金元の金融機関と口座
  • 送金日時
  • 送金金額
  • 振込先の金融機関・支店・口座情報
  • 振込依頼人名や取引番号
  • 予約中、処理中、完了などの状況
  • 社内で承認した担当者の有無
  • 関連する請求書やメール

取引明細の画面や利用明細など、確認できる記録を保存します。

ただし、記録の整理に時間をかけすぎて、金融機関への連絡が遅れないようにしてください。

不正利用の疑いが強い場合は、分かっている情報だけでも金融機関へ連絡し、追加で必要な情報を確認しましょう。

3.金融機関への連絡を優先する理由

不正送金が疑われた場合、重要なのは送金元の金融機関へ速やかに連絡することです。

金融機関では、取引状況に応じて、送金の停止、組戻しの手続き、口座やインターネットバンキングの利用制限など、可能な対応を案内する場合があります。

ただし、すべての取引で停止や回収ができるわけではありません。

送金先へ資金が移動している場合や、すでに出金されている場合など、状況によって対応が異なります。

金融機関に伝える内容

  1. 法人名、連絡担当者名
  2. 不正送金が疑われる旨
  3. 対象口座と取引日時
  4. 送金金額と振込先
  5. 送金の処理状況
  6. 不審なメールやログインの有無
  7. 停止・組戻し・口座保護について確認したい旨
電話で伝える例

「法人名義の口座で、不正送金の可能性がある取引を確認しました。取引日時と金額をお伝えしますので、現在の処理状況と、送金停止や組戻しなど可能な対応を至急確認したいです。」

金融機関の電話番号は、公式サイト、通帳、契約書類などで確認してください。不審なメールやSMSに書かれた連絡先をそのまま利用しないことが重要です。

4.送金前・送金後で異なる対応

不審な取引に気づいた時点で、送金が完了しているかどうかによって対応が変わります。

状況 優先する対応
まだ送金していない 送金を保留し、取引先への独立した確認と社内承認を実施
振込予約中・処理中 金融機関へ至急連絡し、取消しや停止の可否を確認
送金が完了している 金融機関へ連絡し、組戻しなど可能な対応を確認
銀行アカウントの不正利用が疑われる 金融機関へ至急連絡し、利用制限や認証情報の保護を相談

送金前であれば、確認が終わるまで処理を保留することが重要です。

送金後であっても、対応を諦めず、速やかに金融機関へ連絡してください。

ただし、連絡したからといって、資金の回収が保証されるわけではありません。

5.組戻しと資金回収の注意点

誤った振込先へ送金した場合、金融機関に組戻しについて相談することがあります。

組戻しとは、振込済みの資金について、振込先からの返還を求めるための手続きです。

一般に、振込が完了した後の組戻しには受取人の承諾が必要となる場合があり、必ず成功するものではありません。

また、不正送金の疑いがある場合には、通常の誤振込とは異なる対応が必要になることもあります。

金融機関に事情を正確に説明し、可能な手続きを確認してください。

注意

「銀行へ連絡すれば必ず返金される」「組戻しを依頼すれば資金を回収できる」とは断定できません。

回収の可否、必要な手続き、対応に要する時間は個別の状況によって異なります。

6.取引先への事実確認の進め方

協力会社や資材業者から振込先変更のメールが届き、その口座へ送金した場合は、取引先への確認も重要です。

ただし、金融機関への緊急連絡を後回しにしないでください。

取引先へ確認する際は、変更依頼メールに書かれた電話番号ではなく、以前から把握している電話番号を利用します。

取引先へ確認する内容

  • 振込先口座を変更した事実があるか
  • 変更を依頼した担当者は誰か
  • 正式な変更通知を出しているか
  • 請求書の再発行や差し替えを行ったか
  • 取引先でも不審なメールを確認していないか

確認した日時、担当者名、回答内容を記録します。

取引先が変更を否定した場合は、その事実を金融機関や社内責任者へ速やかに共有しましょう。

7.経理担当者と社内で共有する内容

不正送金が疑われた場合、社長だけで対応を抱え込まないことが重要です。

経理担当者、支払承認者、システム管理担当者など、必要な担当者へ情報を共有します。

ただし、関係のない従業員まで詳細な口座情報を広く共有する必要はありません。

対応に必要な範囲で、情報を整理しましょう。

担当 主な役割
社長・責任者 対応の優先順位、外部連絡、社内の意思決定
経理担当者 取引明細、請求書、振込先、承認記録の確認
現場担当者 工事内容、発注状況、取引先との連絡経緯の確認
システム管理担当者 メールや銀行アカウントの不正利用の調査・保護

小規模企業では、社長が複数の役割を担う場合もあります。

その場合も、金融機関への連絡担当と、取引記録を確認する担当を分けられるか検討しましょう。

8.メール乗っ取りが疑われる場合

振込先変更の依頼が、正規の取引先メールアドレスから届いていた場合でも、安全とは限りません。

メールアカウントが第三者に不正利用されている可能性があるためです。

また、自社のメールアカウントが不正利用され、社内の支払担当者へ偽の指示が送られる可能性もあります。

疑いがある場合は、システム管理担当者や専門事業者と連携し、次の点を確認します。

  • 不審なログイン履歴
  • 意図しないメール転送設定
  • 不審なアプリ連携やログインセッション
  • パスワードや多要素認証の設定
  • 不要なアクセス権限
  • 他の取引先にも不審なメールが送られていないか

必要な記録を保全したうえで、認証情報の変更や不審なセッションの失効など、状況に応じた対策を進めます。

9.証拠と取引記録を保全する手順

不正送金の疑いを調べるためには、取引記録やメールなどの情報が重要です。

例えば、次の記録を保存します。

  • 送金明細や振込受付番号
  • 銀行への連絡日時と担当者名
  • 振込先変更の依頼メール
  • 請求書や契約書
  • 取引先への確認内容
  • 社内承認の記録
  • 不審なログイン通知や関連ログ

メールはスクリーンショットだけでなく、可能であればヘッダー情報を含む元のデータも保全します。

不審なメールを安易に削除したり、関係する端末を自己判断で初期化したりしないことが重要です。

ただし、被害拡大を防ぐためのアカウント保護など、緊急対応が必要になる場合もあります。

証拠保全と被害防止を両立できるよう、専門担当者と連携してください。

事故時の連絡体制については、サイバー事故に備える緊急連絡体制の準備も参考になります。

10.警察・専門事業者への相談

犯罪による送金被害が疑われる場合は、金融機関への連絡と並行して、警察への相談を検討します。

警察へ相談する際は、送金日時、金額、振込先、関連メール、金融機関への連絡状況などを整理しておくと説明しやすくなります。

また、メールアカウントやインターネットバンキングの不正利用が疑われる場合は、情報セキュリティの専門事業者への相談も重要です。

ただし、警察への相談や専門事業者による調査を行ったからといって、必ず資金を回収できるわけではありません。

必要に応じて、顧問弁護士や関係する専門家とも連携し、取引先への説明や今後の対応を整理してください。

11.建設会社の支払業務を守る再発防止策

初動対応が落ち着いたら、同じ問題を繰り返さないために、支払業務の確認手順を見直します。

建設会社では、工事ごとに元請会社、協力会社、資材業者などとの取引が発生します。

そのため、振込先の登録・変更や請求書の照合について、担当者ごとの判断に任せすぎないことが重要です。

見直したい社内ルール

  1. 振込先変更は、メール以外の連絡手段で確認する
  2. 確認には、以前から把握している電話番号を利用する
  3. 請求書の工事名、金額、振込先を照合する
  4. 口座変更や例外的な送金は、責任者の承認を受ける
  5. 重要なアカウントには多要素認証を設定する
  6. 不要なアカウントや権限を整理する
  7. 不審な送金に気づいた際の連絡先を共有する

クラウドや外部委託先との情報共有については、クラウドサービス・外部事業者のリスクも参考になります。

12.社長向け初動チェック表

不正送金が疑われた場合、次の項目を確認してください。

優先 確認・対応項目 記録すること
最優先 送金元の金融機関へ至急連絡する 日時、担当者、案内内容
最優先 送金の処理状況を確認する 予約中・処理中・完了など
高 取引明細を確認する 日時、金額、振込先、取引番号
高 追加の不審な送金がないか確認する 対象口座と確認結果
高 社内の責任者と経理担当者で共有する 担当者、対応内容
高 取引先へ独立した連絡手段で確認する 担当者、回答内容
高 関連メールや請求書を保存する 保存場所、対象資料
必要時 銀行アカウントの保護を相談する 利用制限、認証情報の対応
必要時 警察や専門事業者へ相談する 相談日時、受付内容
対応後 支払承認や振込先変更のルールを見直す 改善内容、担当者、実施日

不正送金による損失や調査費用への備えについては、中小企業のサイバー保険と実務対策も参考になります。

ただし、詐欺による送金損失やサイバー事故の費用が補償されるかどうかは、契約内容、事故原因、免責事項などによって異なります。補償されると一律に判断することはできません。

13.今日の一歩とまとめ

不正送金が疑われたとき、社長に求められるのは、すべての原因を一人で解明することではありません。

まず、金融機関へ連絡し、取引状況と可能な対応を確認することが重要です。

そのうえで、経理担当者や取引先と事実を確認し、必要な記録を残し、二次被害の防止に取り組みます。

今日の一歩

次の三つを、一枚の紙や社内の共有資料にまとめてください。

  1. 会社が利用する金融機関の緊急連絡先
  2. 不審な送金に気づいた際の社内報告先
  3. 振込先変更を確認する取引先の既知の連絡先

連絡先をすぐ確認できる状態にしておくことが、緊急時の初動を早めるために役立ちます。

不正送金の疑いがあれば、金融機関への連絡を遅らせない。

これが、社長が最初に押さえておきたい重要な行動です。

参考情報:警察庁|サイバー警察局/IPA|情報セキュリティ

この記事をシェアする

記事一覧へ戻る

コメント Comments

コメント一覧

コメントはありません。

トラックバックURL

https://risk.pakira-izu.co.jp/2026/10/21/construction-suspected-fraudulent-transfer-first-response/trackback/

関連記事 Relation Entry