「社長、自社の工場のネットワークに、何がつながっているか把握していますか」。こう聞かれて、すべての接続機器や外部との通信経路を説明できる経営者は、どのくらいいるでしょうか。
工場では、事務所のパソコンやサーバーだけでなく、生産設備、制御装置、監視カメラ、設備保守用の機器などがネットワークにつながっている場合があります。こうした接続は生産性や管理効率の向上に役立ちますが、接続先や管理状況を把握していないと、サイバーリスクを見落とす可能性があります。
ただし、ネットワークにつながっていること自体が危険というわけではありません。重要なのは、何が、どこに、誰の権限で接続されているのかを把握し、必要な対策を取ることです。
工場のネットワーク対策で最初に確認したいのは、外部から接続できる機器と、その管理責任者です。設備の通信を安易に切断するのではなく、現場責任者や保守会社と連携して、接続経路とアクセス権限を確認しましょう。
目次|工場のネットワークに潜むサイバーリスク[開く/閉じる]
1.工場のネットワークとは何か
工場のネットワークとは、パソコンやサーバー、生産設備、制御装置などがデータをやり取りするための通信の仕組みです。機器同士を有線LANで接続する場合もあれば、無線通信や専用の産業用ネットワークを利用する場合もあります。
例えば、設備の稼働状況を監視画面に表示したり、生産管理システムから作業指示を送ったりする仕組みがあります。工場によっては、設備メーカーが遠隔から保守作業を行うための接続経路も設けられています。
ネットワークの構成は工場ごとに異なります。すべての設備がインターネットにつながっているわけではなく、独立したネットワークや設備も存在します。
2.どのような機器がつながっているのか
工場のネットワークを理解するには、まず接続されている機器を把握することが重要です。事務所のパソコンだけを管理していても、工場内の設備や保守用機器まで確認できているとは限りません。
| 機器・システム | 主な役割 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| パソコン・サーバー | 業務データの処理・保存 | 更新状況、利用者、権限 |
| ルーター・通信機器 | ネットワーク間の通信 | 接続先、設定、管理者 |
| 監視カメラ | 工場や設備の映像監視 | 外部閲覧の有無、認証設定 |
| PLC・制御装置 | 設備や工程の制御 | 接続先、保守体制、安全手順 |
| 設備監視システム | 稼働状況や異常の監視 | 利用者、接続範囲、ログ |
| 遠隔保守用機器 | メーカー等による設備保守 | 接続権限、利用条件、管理責任者 |
この表にある機器がすべての工場に存在するわけではありません。自社で実際に利用している機器を洗い出し、一覧にまとめることから始めましょう。
3.リスク① 事務所と工場の接続
製造業では、受発注や生産計画を扱う事務所のITシステムと、工場の生産設備に関わるOTシステムが連携している場合があります。こうした接続により、設備の稼働状況を確認したり、生産計画を効率的に管理したりできます。
一方で、事務所のシステムがサイバー攻撃を受けた際、接続構成やアクセス制御の状況によっては、工場の業務に影響が及ぶ可能性があります。ただし、ITシステムが侵害されたからといって、必ず制御装置まで攻撃が広がるわけではありません。
事務所と工場のネットワークは、どこで接続されていますか。生産管理システムと制御システムの間で、どのような情報をやり取りしているかも確認しておきましょう。
4.リスク② 外部保守用の遠隔接続
工場では、設備メーカーや保守会社が遠隔から設備の状態を確認したり、必要な保守作業を行ったりする場合があります。遠隔接続は、現地訪問を待たずに状況を確認できるなど、業務上の利点があります。
しかし、利用者や認証方法が適切に管理されていない場合、不正アクセスの入口となるおそれがあります。例えば、使われなくなった保守用アカウントが残っていたり、接続できる範囲が必要以上に広かったりすると、リスクが高まる可能性があります。
遠隔保守で確認したい5項目
- どの保守会社が接続できるか
- どの機器やシステムへ接続できるか
- 接続に利用するアカウントを誰が管理しているか
- 多要素認証などの認証対策が利用できるか
- 接続履歴や利用状況を確認できるか
遠隔保守を一律に禁止することが目的ではありません。必要な保守業務を続けながら、適切に管理することが重要です。
5.リスク③ 監視カメラや周辺機器
工場のネットワークには、パソコン以外にも監視カメラ、録画装置、ネットワークプリンター、通信機器などが接続されている場合があります。これらの機器も、設定や管理状況によってはサイバーリスクの対象になります。
例えば、初期設定のパスワードが変更されていなかったり、更新が必要な機器を長期間そのまま使用していたりすると、不正アクセスの可能性が高まる場合があります。
また、外部から監視映像を閲覧できる仕組みがある場合は、認証設定や公開範囲の確認が必要です。ただし、監視カメラがネットワークにつながっているだけで、直ちに映像が外部へ公開されるわけではありません。
6.リスク④ PLC・制御システム
PLCはProgrammable Logic Controllerの略で、機械や設備の動作を制御する装置です。工場では、センサーからの信号を受け取り、搬送装置や加工機などを動かす仕組みに利用される場合があります。
PLCなどの制御装置がネットワークにつながっている場合は、どの機器から通信できるか、外部から操作できる構成になっていないかなどを確認することが重要です。
制御システムに問題が生じた場合、設備の停止や異常動作など、物理的な工程への影響が考えられます。ただし、実際の影響は設備の構成や安全機能によって異なります。
制御装置の通信設定を変更したり、ネットワークを切断したりする際は、設備の動作や安全に影響する可能性があります。自己判断で変更せず、現場責任者、設備メーカー、保守会社と連携して対応してください。
7.リスク⑤ 古い機器と不要なアカウント
工場では、長期間使用する設備や、更新のために停止できる時間が限られたシステムがあります。設備の仕様によっては、一般的なパソコンと同じように更新プログラムを適用できない場合もあります。
そのため、更新が難しい機器については、接続できる相手を制限するなど、別の対策が必要になる場合があります。具体的な対策は、設備メーカーや保守会社と相談して検討することが大切です。
また、退職者、異動した担当者、過去の保守会社などのアカウントが残っていないかも確認しましょう。不要なアカウントを整理し、必要な利用者だけに権限を与えることが基本です。
8.攻撃が生産・出荷へ及ぼす影響
工場のネットワークを通じて重要なシステムが利用できなくなった場合、生産指示や設備監視、出荷管理などに支障が出る可能性があります。また、図面や生産データが不正に持ち出されれば、情報漏えいの問題が生じる場合もあります。
ただし、ネットワークへの不正アクセスが発生したからといって、必ず生産ラインが停止するわけではありません。影響は、侵害された機器、システム間の接続、設備の安全機能、代替手順などによって変わります。
| 想定される影響 | 発生する可能性がある状況 | 事前に確認したいこと |
|---|---|---|
| 生産ラインの停止 | 制御や生産指示に必要なシステムが使えない | 安全停止手順、代替運用 |
| 出荷遅延 | 生産や出荷管理に支障が出る | 在庫、納期、取引先連絡 |
| 図面・データの流出 | 保存先や共有システムが侵害される | アクセス権限、保管場所 |
| 設備の異常動作 | 制御システムが不正操作等の影響を受ける | 安全機能、異常時の対応 |
| 取引先への影響 | 納品や共有業務が滞る | 連絡体制、代替手段 |
これらは一般的に想定されるリスクであり、特定の企業で発生した事故を示すものではありません。
9.ネットワーク分離とは何か
ネットワーク分離とは、業務や設備の役割に応じて通信範囲を分け、必要のない接続を制限する考え方です。例えば、事務所のネットワークと設備制御に関わるネットワークを区分し、必要な通信だけを許可する構成があります。
適切に設計されたネットワーク分離は、攻撃の影響が広がる範囲を抑える対策の一つになります。ただし、分離しただけですべての攻撃を防げるわけではなく、設定や運用、外部接続の管理も重要です。
分離を検討する際の確認事項
- どの業務と設備の間に通信が必要か
- 現在の接続構成が分かる資料はあるか
- 外部保守に必要な通信経路は何か
- 通信制限が設備の安全や稼働に影響しないか
- 設定変更を誰が承認・実施するか
工場では、必要な通信を突然遮断すると、生産設備や監視システムに支障が出る可能性があります。接続変更は、現場の安全を確認し、設備メーカーや専門家と計画的に実施してください。
10.工場で実施したい基本対策
工場のネットワークを守るためには、高価な製品を導入する前に、現在の接続状況と管理体制を把握することが重要です。接続先が分からないままでは、不要な通信や権限を適切に見直すことが難しくなります。
基本となる6つの対策
- ネットワークにつながる主要な機器を一覧化する
- 事務所・工場・外部との接続関係を確認する
- 不要なアカウントやアクセス権限を見直す
- 遠隔接続の認証と利用状況を確認する
- 更新が必要な機器と更新が難しい機器を把握する
- 事故時の連絡体制と安全な復旧手順を整える
多要素認証、権限の最小化、通信制限、バックアップなども、環境に応じて検討したい対策です。工場の設備に関わる設定変更は、必ず安全性や稼働への影響を確認して進めましょう。
中小企業の情報セキュリティ対策については、IPAの中小企業の情報セキュリティ対策ガイドラインも参考になります。
11.不審な通信に気づいたときの対応
工場で不審な通信や設備の異常が見つかった場合は、まず人と設備の安全を確認します。そのうえで、異常が確認された機器、発見時刻、影響する工程などを整理し、社内の責任者や保守会社へ連絡してください。
不審な通信が見つかったからといって、必ずサイバー攻撃が発生したと断定できるわけではありません。機器の故障や設定の問題など、別の原因も考えられるため、確認できた事実を記録することが大切です。
初動で確認したいこと
- 人や設備の安全に問題がないか
- 異常が確認された機器と発見時刻
- 影響するシステムや生産工程
- 外部接続や保守作業の状況
- 社内責任者と保守会社への連絡状況
- 安全に業務を継続できる範囲
被害拡大を防ぐために通信制限などが必要になる場合もありますが、制御装置や設備の通信を自己判断で切断しないでください。現場の安全手順と専門家の判断を優先し、原因調査に必要な記録も可能な範囲で保全しましょう。
12.社長のための10項目チェックリスト
自社の工場について、次の10項目を確認してみてください。社長自身がすべての技術的な内容を調べる必要はありません。現場責任者や保守会社に確認することが第一歩です。
- 工場の主要なネットワーク機器を把握している
- 事務所と工場の接続関係を確認している
- 外部から工場へ接続できる経路を把握している
- 設備メーカーや保守会社の接続権限を管理している
- 監視カメラなどの認証設定を確認している
- PLCや制御装置の管理責任者が決まっている
- 更新が難しい機器を把握している
- 不要なアカウントや接続を見直している
- 設備異常時の安全手順と連絡先が決まっている
- ネットワーク構成を確認できる資料がある
現場責任者に「外部から工場のネットワークへ接続できる機器は何ですか。その接続は誰が管理していますか」と質問してみてください。答えが分からなければ、設備メーカーや保守会社と確認しましょう。
13.まとめ|まず外部接続を確認する
工場のネットワークには、パソコンやサーバーだけでなく、監視カメラ、PLC、設備監視システム、遠隔保守用の機器などが接続されている場合があります。これらの接続は便利な一方、管理されていない経路や不要な権限が残っていると、サイバーリスクを高める可能性があります。
重要なのは、すべての接続をなくすことではありません。自社に必要な通信を把握し、適切な認証、アクセス制御、更新管理、安全な運用を整えることです。
まずは今日、外部から工場へ接続できる機器と、その管理責任者を一つずつ確認してみてください。工場のネットワークを「見える化」することが、現実的なサイバー対策の出発点になります。
参考にした公的情報
※この記事は工場ネットワークで想定される一般的なリスクを解説しています。実際の危険性や対策は設備構成、接続状況、運用条件によって異なります。設備の通信設定変更や停止は、安全を確認したうえで専門家と相談してください。

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