「サイバー事故で業務システムが使えなくなった。復旧には費用がかかると言われている」
「それでも、従業員の給与や協力会社への外注費は支払わなければならない」
建設会社でこうした事態が起きた場合、社長は何を優先すべきでしょうか。
サイバー事故では、原因調査、システム復旧、専門家への相談などの費用が発生する可能性があります。
一方、工事が継続できるかどうかにかかわらず、給与、外注費、資材代金、家賃、借入金の返済など、支払予定が残ることがあります。
つまり、サイバー事故への対応では、復旧費用だけでなく、運転資金の確保も重要です。
- サイバー事故で発生し得る復旧費用
- 建設会社が確保したい運転資金
- 資金繰り表を使った不足額の確認
- 金融機関や専門家への相談準備
- サイバー保険を確認する際の注意点
- 社長が今日から始められる資金確保の準備
目次|クリックで開閉できます
1.サイバー事故で資金が必要になる理由
サイバー事故が発生すると、会社のシステムやデータに影響が出る場合があります。
例えば、工事の工程管理、見積書、請求書、会計データ、取引先情報などを利用できなくなる可能性があります。
こうした場合、システムを復旧するための費用が発生することがあります。
また、業務の一部が止まれば、請求書の発行や入金確認が遅れる可能性もあります。
一方で、従業員の給与や協力会社への支払いなどは、契約や法令に基づいて対応する必要があります。
サイバー事故では、支出が増える可能性と、入金が遅れる可能性を同時に考えることが重要です。
2.復旧費用と運転資金を分けて考える
社長が最初に整理したいのは、復旧費用と運転資金の違いです。
| 区分 | 主な内容 | 確認すること |
|---|---|---|
| 復旧費用 | 原因調査、データ復旧、システム再構築、専門家への相談 | 必要な作業、見積額、支払時期 |
| 運転資金 | 給与、外注費、資材代金、家賃、通常の経費 | 支払期日、必要金額、利用できる預金 |
| 入金への影響 | 請求書発行の遅延、工事進行への影響など | 入金予定日、遅延の可能性 |
復旧費用だけを確保しても、給与や外注費の支払いに必要な資金が不足すれば、事業継続に影響します。
反対に、運転資金を優先するあまり、必要な安全確認や復旧作業を行えなければ、業務再開が遅れる可能性があります。
両方を分けて把握し、支払時期と優先順位を確認しましょう。
3.復旧費用として想定したい項目
サイバー事故の復旧費用は、事故の内容や影響範囲によって異なります。
主に次のような項目が考えられます。
| 費用項目 | 想定する作業 | 確認すること |
|---|---|---|
| 初動調査 | 不審な通信や端末の確認 | 調査範囲、費用、着手時期 |
| 原因調査 | 侵入経路や影響範囲の調査 | 調査対象、報告内容 |
| データ復旧 | バックアップからの復元など | 復旧できる範囲、所要期間 |
| システム再構築 | 端末・サーバーの再設定 | 必要な機器、作業費用 |
| 専門家への相談 | 技術・法務などの相談 | 必要性、契約条件、費用 |
| 取引先への対応 | 必要な連絡や調査への協力 | 対象先、連絡方法、追加費用 |
すべての事故で、これらの費用が発生するわけではありません。
また、復旧費用の見積額が最初から確定するとは限りません。
見積書には、作業範囲、追加費用が発生する条件、支払時期などを確認しましょう。
4.建設会社で止められない支払い
建設会社では、システムが停止しても、すべての支払いを止められるわけではありません。
例えば、次のような支払いがあります。
- 従業員の給与
- 協力会社への外注費
- 資材代金
- 事務所や倉庫の賃料
- 車両や建設機械のリース料
- 借入金の返済
- 税金や社会保険料など
それぞれ、法令、契約、支払期日などに応じた対応が必要です。
特に給与については、労働基準法上の賃金支払ルールがあります。
協力会社への下請代金についても、契約内容や建設業法などの規制を確認する必要があります。
資金繰りが厳しいからといって、社長の判断だけですべての支払日を変更できるわけではありません。
5.資金繰り表で不足額を確認する
復旧費用と運転資金を把握するために、資金繰り表を作成しましょう。
難しい表を作る必要はありません。
まずは、今後の入金予定と支払予定を時系列で整理することが重要です。
| 項目 | 記入する内容 |
|---|---|
| 現在の利用可能預金 | 銀行口座ごとの残高と利用可否 |
| 入金予定 | 工事代金などの入金予定日・金額 |
| 給与 | 支払日・必要金額 |
| 外注費 | 協力会社ごとの支払日・金額 |
| 資材代金 | 支払日・金額 |
| 復旧費用 | 見積額・着手金・支払予定日 |
| その他の支出 | 賃料、リース料、返済など |
資金繰りを確認する際は、帳簿上の残高だけでなく、実際に利用できる資金を確認してください。
また、入金予定が確定しているものと、遅れる可能性があるものを分けて整理しましょう。
不足額を確認する考え方
ある時点の資金残高は、原則として次のように整理できます。
開始時点の利用可能資金 + その時点までの入金見込み - その時点までの支払予定額
ただし、実際の資金繰りでは、入金時刻、口座の利用制限、支払締切なども影響します。
日付ごとに資金残高が不足しないか確認することが重要です。
6.事故直後に確認する預金と入金予定
サイバー事故が発生した直後は、まず利用できる預金と入金予定を確認します。
確認したいのは、単に口座残高がいくらあるかということだけではありません。
- 各銀行口座の利用可能残高
- インターネットバンキングの利用可否
- 給与・外注費の振込予定
- 元請会社などからの工事代金入金予定
- 請求書発行が遅れている取引
- 資金移動に必要な承認権限
不正送金や口座の不正利用が疑われる場合は、金融機関への緊急連絡を優先してください。
また、会計システムが利用できない場合に備え、銀行の正式な取引記録や保存済みの資料から確認できる体制も重要です。
7.金融機関へ相談する際の準備
事故によって一時的に資金が不足する見込みがある場合、取引金融機関への相談を検討します。
ただし、融資が必ず受けられるわけではありません。
金融機関へ相談する際は、現在の状況を具体的に説明できる資料を準備しましょう。
相談時に整理したい資料
- 事故が発生した日時と現在の状況
- 停止している業務と事業への影響
- 復旧費用の見積書や概算
- 今後の資金繰り表
- 工事代金の入金予定
- 給与・外注費などの支払予定
- 復旧の見込みと事業継続の計画
まだ確定していない費用や復旧時期は、見込みであることを明確にしましょう。
また、既存の借入契約や利用可能な融資枠がある場合は、その条件を確認します。
相談する際は、借入可能額だけでなく、実行までに必要な期間も確認することが重要です。
8.公的支援制度を確認する際の注意点
中小企業の資金繰りを支える制度には、日本政策金融公庫や信用保証制度などがあります。
ただし、サイバー事故が発生しただけで、特定の融資制度や保証制度を必ず利用できるわけではありません。
利用条件、必要書類、審査、実行までの期間などは制度ごとに異なります。
そのため、資金が必要になってから制度を調べるだけでなく、平常時から相談先を把握しておくことが重要です。
確認したい相談先
- 現在の取引金融機関
- 日本政策金融公庫
- 地域の信用保証協会
- 商工会・商工会議所などの経営相談窓口
相談先によって利用できる制度や支援内容が異なります。
制度の最新条件は、必ず公式情報で確認してください。
9.サイバー保険の契約内容を確認する
サイバー事故の費用を考える際は、加入している保険契約の内容も確認しましょう。
サイバー保険では、契約内容によって、事故対応費用や損害などが補償対象となる場合があります。
ただし、すべての復旧費用や運転資金が補償されるわけではありません。
また、保険金が事故直後に必ず支払われるとは限りません。
確認したい項目
- 補償対象となる事故の範囲
- 事故対応費用・調査費用・復旧費用の取り扱い
- 業務停止に伴う損失の補償の有無
- 支払限度額、免責金額、待機期間など
- 事故発生時の連絡先と事前承認の要否
- 保険金請求に必要な書類
復旧作業を依頼する前に、保険会社への連絡や承認が必要となる契約もあります。
事故対応のために緊急措置が必要な場合も含め、契約条件と保険会社の指示を確認してください。
保険契約の確認ポイントは、中小企業のサイバー保険と実務対策も参考になります。
サイバー保険は、会社の運転資金を自動的に補充する仕組みではありません。
補償対象、支払条件、請求手続き、支払時期を確認し、当面の支払いに必要な資金は別に考えることが重要です。
10.復旧作業と事業継続の優先順位
復旧費用が限られている場合、すべてのシステムを同時に復旧できるとは限りません。
そのため、事業を継続するために重要な業務を整理します。
建設会社では、例えば次のような業務が考えられます。
- 従業員の給与計算・支払い
- 協力会社への外注費の支払い
- 工事の工程管理
- 現場との連絡
- 請求書の発行と入金確認
- 安全管理に必要な情報の確認
ただし、業務の重要度は会社ごとに異なります。
また、感染や不正アクセスが疑われるシステムを、安全確認が終わらないまま再接続すると、被害が広がる可能性があります。
復旧の優先順位は、専門担当者と連携し、安全性と事業継続の両面から判断しましょう。
外部クラウドサービスへの依存については、クラウドサービス・外部事業者のリスクも参考になります。
11.従業員・取引先・金融機関への説明
サイバー事故によって業務や支払いに影響が出る場合、関係先への説明が必要になることがあります。
ただし、原因や復旧時期が確認できていない段階で、断定的な説明をしないことが重要です。
従業員への説明
- 現在確認できている業務への影響
- 給与支払いへの影響の有無
- 会社が進めている対応
- 次回の連絡予定
取引先への説明
- 工事や請求業務への影響
- 必要な代替連絡手段
- 支払い・入金に関する確認事項
- 次回の連絡予定
金融機関への説明
- 事故の発生状況
- 事業継続への影響
- 復旧費用と資金不足の見込み
- 資金繰り表と今後の対応
説明した日時、相手先、内容、回答を記録しておきましょう。
事故時の連絡体制を整える際は、サイバー事故に備える緊急連絡体制の準備も参考になります。
12.社長向け資金確保チェック表
サイバー事故に備えて、次の項目を確認してください。
| 確認項目 | 社内で確認する内容 |
|---|---|
| 利用可能預金 | 銀行口座ごとの残高と利用可否 |
| 復旧費用 | 調査・復旧・専門家費用の概算 |
| 給与 | 支払日と必要金額 |
| 外注費 | 協力会社ごとの支払予定 |
| 資材代金 | 支払日と必要金額 |
| 入金予定 | 工事代金の入金予定日と遅延の可能性 |
| 資金繰り表 | 日付ごとの資金不足の有無 |
| 金融機関 | 相談先、担当者、必要書類 |
| 公的制度 | 利用条件、審査、実行までの期間 |
| 保険契約 | 補償内容、事故連絡先、支払条件 |
| 事業継続 | 優先して復旧する業務 |
| 関係先への連絡 | 従業員・取引先・金融機関への説明担当 |
簡易資金繰り表のひな形
| 項目 | 今週 | 翌週 | 翌々週 |
|---|---|---|---|
| 期首の利用可能資金 | 記入 | 前週末残高 | 前週末残高 |
| 入金予定 | 記入 | 記入 | 記入 |
| 給与・外注費など | 記入 | 記入 | 記入 |
| 復旧費用 | 記入 | 記入 | 記入 |
| その他支出 | 記入 | 記入 | 記入 |
| 期末の見込資金 | 計算 | 計算 | 計算 |
週単位の表は全体を把握するための簡易版です。
給与や外注費など、支払日が決まっているものについては、日付ごとの資金残高も確認しましょう。
13.今日の一歩とまとめ
サイバー事故の復旧費用と運転資金を確保するためには、まず必要な支出を分けて整理することが重要です。
復旧費用は、調査やシステム復旧などに必要なお金です。
運転資金は、給与、外注費、資材代金など、会社を動かし続けるためのお金です。
両方を資金繰り表にまとめ、いつ、いくら不足する可能性があるかを確認しましょう。
今後1か月の資金繰りを確認し、次の三つを書き出してください。
- 給与・外注費などの支払予定額
- 工事代金などの入金予定額
- 緊急時に相談できる金融機関の担当窓口
そのうえで、サイバー事故による復旧費用が追加された場合、どの時点で資金不足が起こり得るか確認しましょう。
復旧費用だけでなく、会社を動かし続けるための運転資金も確保する。
これが、建設会社の社長が押さえておきたい資金対策の基本です。
参考情報:
日本政策金融公庫/
中小企業庁/
IPA|情報セキュリティ

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