「これから捜査内容をお話ししますので、一人の環境で聞いてください」
「捜査情報の漏えいを防ぐため、録音は禁止です」
警察官を名乗る人物から、こんな電話がかかってきたらどうしますか。
今回紹介するのは、実際に記録された不審電話の一場面です。相手は警視庁捜査二課を名乗り、遠方の警察による捜査への協力を求めました。
その後、受電者に一人で話すよう求め、録音も禁止すると説明しました。
これらの発言は、相手の身元を確認する前に従ってしまうと、周囲に相談する機会や冷静に判断する時間を失うおそれがあります。
この記事では、録音で確認できた事実と、一般的な詐欺の心理的な手口を区別しながら、中小企業の経営者と社員が実行できる対策を整理します。
- 「一人で話して」が危険信号になる理由
- 「録音禁止」という要求への安全な対応
- 警察の肩書を利用した心理的な圧力
- 電話を切る際に使える短い言葉
- 社員を一人で判断させない社内ルール
目次|クリックで開閉できます
1.実際の録音で確認できた発言
今回の事例では、警視庁捜査二課の担当者を名乗る人物から電話がありました。
相手は香川県警から捜査協力を求められたと説明し、受電者に話を聞いてほしいと求めました。
録音では、次の流れを確認できます。
| 録音時刻 | 相手の発言・やり取りの要旨 | 注目点 |
|---|---|---|
| 約1分12秒 | 捜査内容を話すため、一人で聞いてほしい | 周囲から離れるよう求めている |
| 約1分40秒 | 捜査情報の漏えい防止のため録音は禁止 | 記録を残さないよう要求している |
| 約1分52秒 | 録音しているかどうかはこちらで分かる | 技術的な根拠が示されていない |
| 約2分00秒 | 現在は録音していないと説明 | 実際の状況と食い違った |
| 約2分08秒 | 受電者が別の録音機で記録していると説明 | 相手の主張に矛盾が生じた |
この録音だけで、相手の正体や犯罪の成立を確定することはできません。しかし、警察を名乗る相手の説明を無条件に信用してはいけないことが分かります。
2.「一人で話して」はなぜ危険信号なのか
人は不安な出来事に直面すると、周囲に相談することで状況を整理しやすくなります。
ところが、電話の相手から一人になるよう求められると、家族や同僚に相談する機会が減るおそれがあります。
例えば、経営者が事務所で電話を受けているときに「社員には聞かれない場所へ移動してください」と言われたとします。
そのまま移動してしまうと、経理担当者や家族が不審な点に気づいて声をかける機会が失われるかもしれません。
もちろん、一人で話すよう求める発言だけで詐欺と断定することはできません。ただし、相手の身元を確認していない段階では、従う必要はありません。
3.周囲に相談できない状況が判断に与える影響
詐欺の手口では、不安を与え、急いで判断させ、第三者への相談を妨げることがあります。
警察官を名乗る電話では、事件や捜査という言葉が心理的な圧力になる可能性があります。
受電者が「警察に協力しなければならない」と感じると、相手の説明を十分に確認せず、会話を続けてしまうことも考えられます。
特に注意したい三つの状況
- 「誰にも話さないでください」と言われる
- 「電話を切らずに説明を聞いてください」と言われる
- 「今すぐ対応しなければ問題になる」と急かされる
今回の録音で確認できたのは、一人で話すよう求めた発言です。残りの二つは、同様の不審電話に備えるための一般的な注意点であり、今回の通話で発言されたと断定するものではありません。
4.「録音禁止」という要求の問題点
実際の録音では、相手は捜査情報の漏えい防止を理由に、録音を禁止すると説明しました。
ここで重要なのは、録音の可否を電話の相手だけの説明で判断しないことです。
記録を残さないよう求められると、後から発言内容を確認することが難しくなります。
例えば、口座情報を聞かれたか、特定の番号への連絡を求められたか、どの警察署を名乗ったかといった内容を、記憶だけで整理しなければならなくなるかもしれません。
一方、通話録音の取り扱いには、会社の規程、個人情報、公開時の権利関係などへの配慮が必要です。
したがって「必ず録音する」ことよりも、まず安全に通話を終了し、必要な記録を残すことを優先してください。
5.録音を見抜けるという説明の矛盾
今回の通話では、相手は録音しているかどうかを把握できると主張しました。
しかし、受電者が別の録音機で記録している状況を言い当てられませんでした。
通常の電話回線だけで、通話相手が別の独立した録音機を使っているかを直接判別することはできません。
そのため、録音を把握できるという発言には、少なくとも今回のやり取りの中で確認できる根拠がありません。
6.警察の肩書が心理的圧力になる理由
警察官という肩書には、社会的な権威があります。捜査二課、事件、捜査協力といった言葉が続くと、受電者は相手の説明を信用しやすくなる可能性があります。
しかし、警察官らしい言葉遣いと、実際に警察官であることは別です。
電話番号の表示も、相手の身元を保証するものではありません。
大切なのは、相手の肩書に従うかどうかではなく、その連絡が本物かどうかを独立した手段で確認することです。
7.正当な秘密保持と不審な要求の違い
警察の捜査には、公開できない情報が含まれる場合があります。そのため、秘密に関する説明があっただけで詐欺と断定することは適切ではありません。
ただし、捜査上の秘密があることと、電話を受けた人が家族や会社に一切相談できないことは同じではありません。
相手が本物か確認できていないなら、いったん通話を終了して警察の公式窓口へ確認することができます。
「本物の警察なら、電話を切って確認しても問題ないはずだ」と相手を試す必要もありません。
確認を拒まれたり、電話を切らないよう強く求められたりした場合には、より慎重に対応してください。
8.電話を安全に終了する具体的な手順
不審な電話を受けたとき、長い説明は必要ありません。
第一段階:確認する意思を伝える
「確認してから対応します。いったん電話を切ります」と短く伝えます。
第二段階:相手の指示に従って操作しない
通話中に送金、アプリのインストール、画面共有、認証コードの入力などを求められても、その場で実行しないでください。
第三段階:公式窓口を自分で調べる
相手から伝えられた番号や送られたリンクではなく、警察の公式サイトなどから確認した窓口に連絡します。
第四段階:必要な情報を社内で共有する
日時、着信番号、名乗った所属、要求された内容を整理し、社内の担当者に報告します。
緊急時の連絡先を決める考え方は、関連記事サイバー事故に備える緊急連絡体制の準備でも解説しています。
9.社長が一人で電話を受けた場合の対応
中小企業では、社長が営業、経理、取引先対応などを一人で担うこともあります。
そのため、警察や金融機関を名乗る電話が社長の携帯電話に直接届くと、相談相手が近くにいない場合があります。
こうした状況に備え、あらかじめ「重要な電話は、その場で決めない」というルールを自分自身にも適用しておきましょう。
例えば、警察を名乗る相手から口座に関する話があった場合、電話を切った後で公式窓口に確認し、必要に応じて社内の経理責任者や信頼できる担当者と情報を共有します。
経営者だからこそ、電話一本で重要な判断をしない仕組みが必要です。
10.社員を孤立させない社内ルール
社員が不審電話を受けたとき、最も避けたいのは「自分で何とかしなければならない」と抱え込んでしまうことです。
会社では、次のルールを明文化しておくと役立ちます。
- 警察・金融機関・官公庁を名乗る電話は、公式窓口で確認する
- 「誰にも話すな」と言われても、社内の決められた担当者に報告する
- 電話だけで送金や口座変更を決定しない
- 不審だと思った時点で通話を終了してよい
- 報告した社員を責めず、事実を確認する
特に、経理担当者や代表電話の受付担当者には、日常の業務手順として共有しておきたい内容です。
外部との連絡や情報共有を安全に行う考え方は、クラウドサービス・外部事業者を利用する際のリスクにも関連します。
11.録音・通話記録の保存と公開上の注意
今回の事例では、録音が残っていたことで発言の順番や矛盾を確認できました。
しかし、録音ファイルには、氏名、電話番号、業務上の会話などが含まれる可能性があります。
会社として保存する際は、次の点に注意してください。
- 録音の保存先を限定し、アクセス権限を設定する
- 必要な保存期間と削除ルールを決める
- 相談先に提出する場合は、元の録音を改変せず保管する
- ブログや動画で紹介するときは、個人情報や無関係な音声を除外する
- 公開の必要性、権利関係、個人情報保護への配慮を確認する
実際の録音を記事で紹介する場合も、相手が名乗った氏名を、実在する警察官の氏名として断定しないことが重要です。
12.公式窓口への確認と被害が疑われる場合の対応
警察を名乗る不審電話について確認したい場合は、警察の公式窓口を利用してください。
緊急の危険がある場合は110番、緊急でない相談には警察相談専用電話「#9110」などがあります。
特殊詐欺の注意喚起は、警察庁公式サイトでも確認できます。
もし口座番号や認証情報を伝えてしまった場合には、警察への相談に加え、金融機関へ速やかに連絡してください。
また、通話をきっかけに不審なアプリをインストールしたり、業務用アカウントの認証情報を入力したりした場合は、社内の情報管理担当者にも報告が必要です。
情報漏えいや不正アクセスへの備えについては、中小企業のサイバー保険と実務対策も参考になります。
なお、不審電話を受けたこと自体がサイバー保険の補償対象になるとは限りません。契約内容や実際に発生した事故によって判断が異なります。
13.経営者向けチェックリストと今日の一歩
社長と社員が同じ対応を取れるか、次の項目を確認してみてください。
- □ 警察を名乗る電話でも、公式窓口に確認するルールがある
- □ 「一人で話して」と言われても、その場で従わない
- □ 「録音禁止」と言われた場合も、まず通話を終了して確認する
- □ 不審電話を受けた社員の報告先が決まっている
- □ 送金や口座変更を電話だけで決定しない
- □ 通話日時や要求内容を記録できる
- □ 録音ファイルを安全に保管できる
- □ 社長が不在でも同じ対応を取れる
社員に次の一言を共有してください。
「警察を名乗る電話でも、一人で判断しない。いったん電話を切り、公式窓口で確認する」
不審電話に対抗するために、相手を言い負かす必要はありません。
電話を切ること、確認すること、相談できること。この三つを当たり前にするだけでも、会社の備えは一歩前進します。

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