事故の写真が、生成AIによって本物そっくりに加工されていたらどうなるでしょうか。保険金請求のデジタル化が進む一方で、写真や見積書などの証拠資料を偽造・改変するリスクが注目されています。
2026年8月には三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保が、9月には東京海上日動が、生成AIによる画像加工などの疑いを検知する取り組みを公表しました。これは保険会社だけの問題ではなく、事故写真や修理記録を管理する企業にとっても重要な変化です。
- 生成AIを悪用した保険金不正請求の仕組み
- 保険会社3社が公表した画像検知の取り組み
- 正当な保険金請求を守るための証拠管理
- 経営者が社内で確認したい具体的な行動
目次|知りたい項目を選んでください
1.生成AIによる保険金不正請求とは
生成AIを悪用した保険金不正請求とは、実際には存在しない損害をあるように見せたり、実際の損害を過大に見せたりするために、画像や書類を不正に作成・加工する行為です。従来の画像編集でも改ざんは可能でしたが、生成AIの普及によって、より自然に見える画像を作成しやすくなりました。
例えば、車両の写真に実際にはない傷を加える、建物の破損状況を実態より大きく見せる、別の事故で使われた画像を流用するといった手口が問題になります。ただし、画像加工のすべてが不正というわけではなく、問題は事実と異なる資料を使って保険金を請求することです。
2.2026年の最新動向と確認できる事実
2026年10月24日付の共同通信の報道では、生成AIで自動車の損傷写真を加工するなど、保険金の不正請求にAIを悪用する問題が取り上げられました。こうした動きに対応するため、損害保険会社は画像データの確認体制を強化しています。
一方で、個別の不正請求件数や業界全体の被害額について、本記事で裏付けられる統一的な数値は確認できていません。報道の「増加」という表現を、そのまま具体的な増加率や件数に置き換えないことが重要です。
| 日付 | 公表・報道内容 | 確認できる範囲 |
|---|---|---|
| 2026年8月3日 | 三井住友海上・あいおいニッセイ同和損保 | AI生成・加工や改変・流用が疑われる画像の検知機能を公表 |
| 2026年9月30日 | 東京海上日動 | 火災保険の画像検知機能の高度化を公表 |
| 2026年10月24日 | 共同通信の報道 | AIを悪用した事故写真の偽造などを紹介 |
3.偽造・改変が問題となる資料
保険金請求では、事故の発生状況や損害額を確認するため、さまざまな資料が使われます。写真だけでなく、修理見積書や領収書などもデジタルデータとしてやり取りされるため、資料全体の整合性を確認することが大切です。
| 資料 | 想定される問題 | 企業側の確認事項 |
|---|---|---|
| 事故写真 | 存在しない損傷の追加、損害の誇張 | 撮影原本、撮影日時、撮影者を保存 |
| 修理見積書 | 作業内容や金額の不自然な変更 | 発行元、明細、対象箇所を確認 |
| 領収書・請求書 | 架空の支出や内容の改変 | 発行元と実際の支払記録を照合 |
| 過去の事故画像 | 別事故の画像の使い回し | 案件ごとに原本と管理番号を保管 |
ここで重要なのは、資料に不自然な点があるからといって、直ちに不正と決めつけないことです。撮影条件やファイル変換、事務処理上の事情によって、追加の説明が必要になる場合もあります。
4.三井住友海上・あいおいニッセイ同和損保の対策
三井住友海上、あいおいニッセイ同和損保、テックユニオンの3社は、2026年8月3日、損害状況写真や修理見積書、領収書などを対象とする画像検知機能を公表しました。画像に含まれる電子的特徴や付随情報を複数の技術で分析し、生成AIによる作成・加工、画像の改変・流用が疑われる特徴を検知する仕組みです。
検知結果は保険金支払業務の参考情報として利用され、支払いに関する最終判断は従来どおり担当者が行います。また、両社は今回の導入によって、契約者の請求手続きが変更されたり、新たな負担が発生したりすることはないと説明しています。
5.東京海上日動の画像検知の取り組み
東京海上日動は2026年9月30日、火災保険の保険金支払業務におけるAI活用の高度化を公表しました。生成AIによる作成・加工が疑われる画像の特徴を検知する機能を9月から運用し、すでに7月から導入していた画像の使い回し検知と組み合わせています。
同社の発表によれば、画像の物理的・視覚的特徴と機械学習モデルによるスコアリングなどを活用します。複数の請求で同一または類似する画像が使われた可能性も調べ、必要な確認や調査につなげる仕組みです。
| 会社 | 公表された主な対象 | 主な取り組み |
|---|---|---|
| 三井住友海上 | 損害状況写真、見積書、領収書など | AI生成・加工、改変・流用の疑いを検知 |
| あいおいニッセイ同和損保 | 損害状況写真、見積書、領収書など | 三井住友海上などと共同開発した機能を導入 |
| 東京海上日動 | 火災保険の請求画像 | AI加工の疑いと同一・類似画像の使い回しを検知 |
なお、各社の検知精度や誤検知率を同じ条件で比較できる公表データは、本記事では確認できていません。会社ごとの優劣を断定することは避ける必要があります。
6.AI検知で不正が確定するわけではない
画像検知システムは、不自然な特徴や追加確認が必要な可能性を見つけるための仕組みです。AIによる検知結果だけで、保険金の支払い可否や不正の有無が自動的に確定するわけではありません。
三井住友海上・あいおいニッセイ同和損保、東京海上日動のいずれも、最終的な判断は担当者が行うと説明しています。正当な事故であっても、必要に応じて追加資料や事情の説明が求められる可能性があるため、事故記録を整理しておくことが役立ちます。
7.企業が巻き込まれる可能性のある場面
企業にとって注意したいのは、自社が故意に不正を行う場合だけではありません。従業員、修理業者、協力会社などから受け取った資料を、十分に確認せず提出してしまうリスクも考えられます。
建設業
現場の損傷写真や修理見積書を複数の協力会社から受け取る場面があります。どの現場で、誰が、いつ撮影した資料なのかを確認できるようにしておくことが重要です。
製造業
設備故障や工場内の事故では、損傷した機械の写真、点検記録、修理会社の報告書などが必要になることがあります。写真と設備番号、故障日時、修理履歴を結び付けて管理すると確認しやすくなります。
運送業・小売業・飲食業
車両事故、店舗設備の破損、什器の損害など、さまざまな場面で画像や見積書が使われます。業種を問わず、事故ごとに証拠資料の原本と提出履歴を残す仕組みが役立ちます。
8.事故直後に残すべき証拠
正当な保険金請求を支える基本は、事故直後の状態をできる限り正確に記録することです。安全確保や救護を優先したうえで、撮影が可能な状況なら、全体の様子と損傷箇所の両方を記録します。
- 事故発生日時、場所、発見者、関係者
- 事故現場の全景と損傷箇所の写真
- 撮影した元の画像ファイル
- 設備番号、車両番号、対象物の識別情報
- 事故発見から応急対応までの時系列
- 修理業者の点検記録、見積書、請求書
- 保険会社や関係先との連絡履歴
事故後に安全確保のため設備を移動したり、応急修理を行ったりすることもあります。その場合は、対応前後の状態と、いつ何を実施したかを記録しておくと、後から状況を説明しやすくなります。
9.写真・見積書の改ざんを防ぐ管理方法
事故写真は、見やすく加工した画像だけでなく、撮影した元のファイルを保存することが基本です。明るさ調整やトリミングが必要な場合も、原本とは別ファイルにして、加工内容を説明できるようにします。
ファイル名を統一し、事故番号、撮影日、撮影場所、撮影者を管理台帳に記録すると、資料を探しやすくなります。保存先のアクセス権限や変更履歴も確認し、誤削除や無断変更を防ぐことが重要です。
「事故番号/撮影日/現場名/撮影者/原本保存先/提出日」を1行にまとめた台帳を用意するだけでも、資料の確認がしやすくなります。
10.外部業者から資料を受け取る際の注意点
修理会社や協力会社から事故写真、見積書、領収書を受け取る際は、発行元と対象事故を確認しましょう。見積書に記載された修理範囲が写真の損傷箇所と一致しているか、日付や設備情報に不自然な違いがないかを確認することが大切です。
確認できない点があれば、担当者に原本や補足説明を求めます。疑問がある資料を社内で勝手に修正して提出するのではなく、資料の作成元に事実関係を確認し、必要に応じて保険会社へ相談してください。
11.資料に疑問が生じた場合の対応
事故写真や見積書の内容に疑問が生じた場合は、まず元のファイルと受領時の記録を保全します。疑わしい資料を削除したり、上書きしたりすると、後から事実関係を確認しにくくなるおそれがあります。
- 受領した資料と元ファイルを保全する
- 作成者、撮影者、発行元、受領経路を確認する
- 事故記録、写真、見積書の内容を照合する
- 確認できた事実と未確認事項を分けて整理する
- 保険会社の担当窓口に状況を説明し、必要な対応を確認する
社内で不正と決めつけたり、関係者を一方的に非難したりすることは避けましょう。重大な不正や犯罪の疑いがある場合は、状況に応じて専門家や関係機関への相談も検討します。
12.社長が確認したい7項目
難しいシステムを導入する前に、まず社内の事故記録の残し方を確認することができます。以下の7項目を、総務担当者や現場責任者と一緒に確認してみてください。
| 確認項目 | できていない場合の最初の行動 |
|---|---|
| 事故写真の原本を保存している | 加工前のファイルを残すルールを決める |
| 撮影日時と撮影者が分かる | 事故管理台帳に記録欄を追加する |
| 事故番号で資料を管理している | 案件ごとのフォルダーを作る |
| 見積書の発行元を確認している | 会社名・担当者・発行日を照合する |
| 外部業者の資料を確認している | 受領者と確認責任者を決める |
| 資料の変更履歴を追える | 原本と編集版を分けて保存する |
| 事故時の連絡先が決まっている | 保険会社・代理店・社内責任者を一覧化する |
13.まとめ・公式情報
生成AIによる保険金不正請求の問題は、写真や書類の信頼性をどのように確保するかという、デジタル時代の課題を示しています。損害保険会社は画像検知の仕組みを強化していますが、検知結果だけで不正や支払い可否が確定するわけではありません。
企業ができる基本的な対策は、事故写真の原本保存、資料の作成経緯の記録、外部業者から受け取る資料の確認です。難しい対策を一度に始めるよりも、まず事故記録を正確に残す運用から整えていきましょう。
公式情報・参考資料
パキラの関連情報
サイバー攻撃、情報漏えい、デジタル証拠の管理など、企業のリスク対策に関する記事はパキラのサイバーリスクブログで紹介しています。今回のシリーズで公開する「AIで偽造された事故写真は見抜けるのか」「AI時代に正当な保険金請求を守る証拠管理」などの記事とも、公開後に相互リンクを設置する予定です。
情報確認日:2026年10月25日。本記事は公表資料と報道をもとに一般的なリスク管理を解説したものです。個別の保険金支払可否は、契約内容、事故状況、保険会社の確認結果などによって異なります。

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