「製品は完成しているのに、物流システムが止まって出荷できない」。製造業では、こうした事態が起これば、納期や取引先との調整が必要になる可能性があります。
製造業のサイバーリスクというと、工場の生産設備や社内パソコンへの攻撃を思い浮かべるかもしれません。しかし、自社の工場が正常に稼働していても、物流会社や外部倉庫のシステムが停止すれば、出荷に影響が及ぶ場合があります。
2026年10月26日、バンダイナムコホールディングスなどは、物流子会社バンダイロジパルへの不正アクセスと、関連する出荷システムの一時停止を公表しました。今回は、この事例を手掛かりに、物流システム停止が製造業の出荷に及ぼす影響と、社長が今から準備できることを解説します。
物流システムが停止しても、必ずすべての出荷が止まるとは限りません。影響は、停止したシステム、倉庫の運用、代替手段によって異なります。社長が最初に確認したいのは、①どのシステムが止まると出荷できないか、②手作業や別ルートで対応できるか、③納期への影響を誰が判断するか、の3点です。
目次|物流システム停止と製造業の出荷対策[開く/閉じる]
1.物流システムが停止すると何が起こる?
物流システムは、商品の入庫、保管、在庫管理、出荷指示、配送手配などを支えています。こうした機能の一部が利用できなくなると、製品そのものは完成していても、出荷に必要な作業が進まなくなる可能性があります。
ただし、物流システムが停止したからといって、すべての出荷が必ず停止するわけではありません。どの機能が停止したのか、手作業で対応できるのか、別の倉庫や運送会社を利用できるのかによって影響は異なります。
| 停止した機能の例 | 製造業で想定される影響 |
|---|---|
| 出荷指示 | 出荷する商品や数量を確定できない |
| 在庫管理 | 出荷可能な在庫数を確認しにくい |
| 送り状・配送連携 | 配送伝票の発行や配送手配が進まない |
| 倉庫作業管理 | ピッキングや検品の指示に支障が出る |
| 取引先とのデータ連携 | 納品予定や出荷実績を共有しにくい |
表は一般的な想定例です。実際のシステム構成や業務手順によって、影響範囲は変わります。
2.2026年10月のバンダイロジパル事例
2026年10月26日、バンダイナムコホールディングス、BANDAI SPIRITS、バンダイロジパルの3社は、物流子会社バンダイロジパルが管理するシステムへの不正アクセスについて第1報を発表しました。
公式発表では、10月21日に不正アクセスの疑いがある痕跡を発見し、同日にアカウントの不正利用による操作を確認したとしています。その後、物流システム全体の調査を進め、関連するシステムを停止しました。
| 日付 | 公式発表で確認できた経緯 |
|---|---|
| 10月21日 | 不正アクセスの疑いを発見。関連サーバーを停止し調査開始 |
| 10月22日 | 対策本部を設置。物流システム全体を調査 |
| 10月23日 | システム停止を決定し、停止作業に着手 |
| 10月24日 | 当該物流システムを停止 |
| 10月26日 | 警察・個人情報保護委員会へ報告。影響する取引先へ告知 |
この事案では、BANDAI SPIRITSが配送を委託する「一番くじ ONLINE」の配送情報について、漏えいの可能性も公表されました。対象情報は氏名・住所・電話番号で、件数などは発表時点で調査中です。クレジットカード情報は含まれておらず、不正使用等も確認されていないと説明されています。
今回の公表事実は、バンダイロジパルの関連システムへの不正アクセス、システム停止、配送情報漏えいの可能性です。一般の製造業で出荷遅延や生産停止が発生したという事実を示すものではありません。また、ランサムウェアが原因と確定したとの記載もありません。
公式発表:バンダイナムコグループ|バンダイロジパルへの不正アクセスについてのお知らせ(第1報・2026年10月26日)
3.製造業の出荷を支えるシステム
製造業の出荷は、工場で製品を完成させれば終わりというわけではありません。出荷指示、在庫の引当て、倉庫での検品、運送会社への引渡しなど、複数の作業がつながっています。
これらの作業を、社内システムと外部の物流会社が連携して行う場合もあります。社長が把握しておきたいのは、どの会社のどのシステムが出荷の判断や作業に必要なのかという点です。
出荷の流れを整理する
- 受注内容と納期を確認する
- 出荷可能な在庫を確認する
- 出荷する商品と数量を確定する
- 倉庫へ出荷指示を送る
- ピッキング・検品・梱包を行う
- 配送手配を行い取引先へ引き渡す
自社の実際の流れを紙に書き出すと、どの工程がシステムに依存しているか見つけやすくなります。
4.影響① 出荷指示が出せなくなる
出荷指示システムが利用できなくなると、倉庫側がどの商品を何個出すべきか確認できない場合があります。出荷する製品が倉庫にあっても、正しい数量や納品先を確認できなければ作業を進めにくくなります。
この場合、手作業の出荷指示書などを使えるかが重要です。ただし、誤出荷を防ぐため、注文内容・在庫・納品先を確認する手順が必要です。システムが止まったからといって、確認を省略して出荷することは避けたいところです。
5.影響② 在庫が倉庫に滞留する
出荷が進まなければ、完成品が倉庫に残る可能性があります。倉庫の保管スペースには限りがあるため、状況によっては次の製品を入庫する場所が不足することも考えられます。
また、在庫管理システムが使えない場合、帳簿上の数量と実際の在庫を照合する作業が必要になる場合があります。保管場所、数量、入出庫履歴をどのように確認するか、物流会社と事前に話し合っておくことが大切です。
物流会社のシステムが止まった場合、完成品を何日分保管できるか、別の場所へ移す必要があるか、追加の保管費用が発生する可能性はあるかを確認しておきましょう。
6.影響③ 生産計画に影響する
完成品を出荷できない状態が続くと、保管スペースや在庫量によっては、生産計画の調整が必要になる可能性があります。特に、保管場所に余裕がない工場では、完成品の滞留が次の生産工程に影響することも考えられます。
ただし、物流システムの停止が直ちに生産停止を意味するわけではありません。工場の稼働状況、在庫の保管能力、代替出荷の可否を確認したうえで判断する必要があります。
生産担当者と共有したい情報
- 完成品の現在の在庫数量
- 今後の生産予定数量
- 保管できる数量と期間
- 優先して出荷すべき製品
- 生産計画の変更を判断する責任者
7.影響④ 取引先への納期調整が必要になる
物流システムが停止して出荷予定に影響が出る場合、取引先への連絡が必要になることがあります。納期が守れるかどうか分からない段階でも、影響が見込まれる注文を整理しておくことが重要です。
このとき、出荷再開日が未定なのに確実な日付として伝えないことが大切です。確認できた事実と見通しを区別し、次にいつ連絡するかを案内すると、取引先も対応を検討しやすくなります。
「現在、委託先の物流システム停止に伴い、一部出荷への影響を確認しております。対象となるご注文と納期について確認を進めており、状況が分かり次第、改めてご連絡いたします」
8.自社のシステムが正常でも影響する理由
製造業の仕事は、自社だけで完結するとは限りません。部品の調達、外部加工、保管、配送など、多くの会社との連携によって成り立っています。
そのため、自社のパソコンや生産設備が正常でも、物流委託先のシステムが停止すれば、出荷業務に影響する場合があります。これは、サイバーリスクを自社のシステムだけで考えてはいけない理由の一つです。
IPAの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン第4.0版」でも、サプライチェーン全体への影響を踏まえた対策の重要性が示されています。
参考:IPA|中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン第4.0版
9.物流会社に確認したいこと
物流委託先を利用している会社では、通常時の出荷手順だけでなく、システムが使えなくなった場合の対応を確認しておきたいところです。重要なのは、物流会社がどのような代替手段を持っているかを把握することです。
| 確認項目 | 質問の例 |
|---|---|
| システム停止時の連絡 | 誰から、どの連絡先に知らせてもらえるか |
| 代替出荷 | 手作業や別システムで出荷できるか |
| 在庫確認 | システム停止中の在庫数量をどう確認するか |
| 優先出荷 | 緊急品や重要取引先向けを優先できるか |
| 再開後の確認 | 停止中の出荷指示と再開後のデータをどう照合するか |
代替手段の有無は物流会社や契約内容によって異なります。すべての会社で手作業の出荷が可能というわけではありません。
10.出荷停止に備える代替手順
物流システム停止への備えでは、システム復旧だけでなく、出荷をどこまで継続できるかを考えることが大切です。特に、納期が厳しい製品や重要取引先向けの製品について、代替手順を決めておくと対応を検討しやすくなります。
準備しておきたい5つの手順
- 重要な注文と納期を一覧にする
- 出荷可能な在庫を確認する
- 物流会社へ代替出荷の可否を確認する
- 必要に応じて別の配送手段を検討する
- 出荷実績を記録し、復旧後に照合する
システム停止中に紙や表計算ソフトで出荷を管理する場合、二重出荷、数量違い、納品先の誤りなどに注意が必要です。停止中の記録を残し、復旧後のシステムと照合できる手順を準備してください。
11.実際に停止した場合の初動対応
物流委託先からシステム停止の連絡を受けたら、まず自社の出荷への影響を確認します。サイバー攻撃の詳細が分からない段階で、原因や復旧時期を推測して説明することは避けましょう。
社内では、営業、製造、物流担当者が同じ情報を共有し、取引先への連絡内容を統一することが重要です。物流会社が安全確認のためにシステムを停止している場合、独断で接続や運用を再開しないようにしてください。
最初に確認したい6項目
- 停止したシステムと業務の範囲
- 出荷できない注文の有無
- 倉庫内の在庫状況
- 代替出荷が可能かどうか
- 納期に影響する取引先
- 次回の状況報告予定
情報漏えいの可能性もある場合は、対象情報や影響範囲を別途確認し、必要な専門家や関係機関と連携してください。
12.社長のための10項目チェックリスト
物流システムが停止したとき、自社はどこまで出荷を継続できるでしょうか。次の10項目を確認してみてください。
- 出荷業務で利用しているシステムを把握している
- 外部の物流委託先と担当窓口が分かる
- システム停止時の緊急連絡先が決まっている
- 重要な出荷先と納期を把握できる
- システム停止中の在庫確認手順がある
- 手作業で出荷できる範囲を確認している
- 代替の運送手段を検討している
- 完成品の保管可能数量を把握している
- 取引先への連絡責任者が決まっている
- 停止中の記録を復旧後に照合する手順がある
最も重要な取引先向けの製品を一つ選び、「明日、物流システムが止まったら出荷できるか」を確認してください。分からなければ、物流会社の担当者へ代替出荷の可否を問い合わせることから始めましょう。
13.まとめ|まず重要な出荷先を一つ確認する
物流システムがサイバー攻撃などで停止すると、製造業では出荷指示、在庫確認、配送手配などに支障が出る可能性があります。影響が長引けば、完成品の滞留や納期調整、生産計画の見直しが必要になる場合もあります。
一方、システム停止によって必ずすべての出荷や生産が止まるわけではありません。実際の影響は、停止した機能、物流会社の代替手段、自社の運用体制によって異なります。
社長が今日確認したいのは、「物流システムが止まったとき、最も重要な製品を出荷できるか」です。まず一つの製品、一つの取引先から確認し、必要な代替手順を考えてみてください。
参考にした一次情報
※2026年10月28日時点の公表情報に基づく解説です。バンダイロジパルの事例は公式発表で確認できた事実に限定し、製造業の出荷・在庫・生産計画への影響は一般的な想定例として説明しています。

コメント Comments
コメント一覧
コメントはありません。
トラックバックURL
https://risk.pakira-izu.co.jp/2026/10/28/manufacturing-logistics-system-outage-shipping/trackback/